1-2. ChatGPTが十分発達した時代に人間が果たすべき役割

近い将来、ChatGPTの最上位プランに加入すると、AGI(汎用人工知能)を搭載した人型ロボットが自宅に届くようになる──そんな時代がもう手の届くところまで来ている。

彼らは、曖昧な指示を即座に理解し、家事・調査・資料作成からプレゼン代行、さらには他者との交渉や顧客対応まで、完璧にこなしてくれるだろう。職場にも家庭にも「最強の右腕」が常駐することが当たり前になる。

このような世界において、もはや「能力のある人」が活躍するのではない。「自分で動ける人」や「行動が速い人」では差別化できない。では、何が人間の価値となるのだろうか。──それは「問いを立て、構造を設計する力」である。

AIやロボットは「与えられた構造の中」での最適化には強いが、「構造そのものを設計する力」は依然として人間の領域である。なぜなら、そこには人間の「意志」と「世界観」が不可欠だからだ。

例えば、AGIに「新規事業を考えて」と頼めば、100案でも200案でも提案してくれるだろう。しかし、それらのどの案を選ぶのか?なぜその案が今の社会に必要なのか?その選択がどんな未来をつくるのか?──これらの問いに答えられるのはAIではなく、人間の“意味の感覚”である。

同様に、ChatGPTが文章を「書いて」くれる時代、人間は「何を書くべきか?」を問わねばならない。AGIが意思決定を「代行」してくれる時代、人間は「なぜそれを選ぶのか?」という意志の構造を設計しなければならない。

つまり、「知性」は民主化された。次に問われるのは、「構造化された意思を持てるかどうか」である。やるべきことは、AIに頼らないことではない。むしろ、AIを“動かすための構造”を設計できるかこそが、未来の人間に課されたテーマである。

AGIが日常化する時代、考えることすら委ねられる時代において、そのような時代のリーダーとは、「問いの建築家」であり「未来の設計士」である。そして構造力とは、そのための中核スキルとなる。

AIの真の可能性は、人間が「構造化された問い」や「前提となる構造」を提供して初めて解き放たれる。これなしには、AIはノイズや一般的なアウトプットしか生成しない。したがって、構造力は、AIをインテリジェントで有用なものにするための「オペレーティングシステム」や「設計言語」として機能する。

これは、AI時代における競争優位性が、AIを「使う」ことではなく、AIの「使い方を構造化する」ことにあることを意味する。